なぜ先延ばしをするのか?

コラム

長い夏休みが始まります。生徒には宿題が出されますが、毎年必ず夏休み終了ギリギリまで宿題に取り掛からない生徒がいます。なぜ先延ばしは起きるのでしょうか。

先延ばし行動の原因

先延ばし研究の第一人者ピアーズ・スティール氏は、著書「ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか」(CCCメディアハウス)の中で、先延ばしが起きる主な要因は脳の構造にあり、特に「衝動性」が原因であることを指摘しています。

脳の機能の内、目の前の欲望を満たす「辺縁系」と、大局的な思考で計画性を司る「前頭前野」がせめぎ合い、辺縁系が前頭前野の計画性を覆し、目の前のものごとを衝動的に優先させる時に先延ばしが起こります。

将来のためにいま我慢することが苦手な人が先延ばし行動をするわけです。

宿題をしなければ後々苦しむことがわかっているのに、目の前の誘惑にかられて宿題を先延ばしするのは、将来の価値と現在の価値を比較した結果となります。

宿題を早く終え、残りの夏休みをストレスなく楽しめることに価値を見いだせれば、面倒でもいま宿題に取り組みます。

したがって、価値判断と時間の概念が先延ばし行動に強く関わってきます。

スウェーデンの動物園にいるサンティーノという雄のチンパンジーは、午後になるといつも、気に食わない見物客に小石を投げつけて過ごしますが、その小石は必ず午前中に集めておくそうです。

午前中に楽しいことをする欲望より、午後に見物客に石を投げつける快感が勝るとき、先延ばしをせずに行動するのです。

 

夢や希望と計画性

学習塾の先生からよく聞く話ですが、教室に卒業生や保護者を招き、現在の仕事や人生についての具体的な話を生徒に聞かせると、その後生徒の学力が上がるそうです。

研究論文「中学生における時間的展望と学習観および学習方略との関係性に関する研究」(2018年)によれば、将来の夢や希望をもつ生徒は目標に向かって計画を立てて準備するなど、前向きな行動を伴って成績も上昇傾向にあることがわかっています。

一方、夢や希望を持たず、単に目標だけが高い生徒は計画性が低くなる傾向にあるそうです。

ある塾では「夢ノート」というノートに生徒の夢を書かせたことがありました。

最初は「看護師になりたい」とだけ書いてきます。たった一行です。そこから先生が面談を重ね、具体的な進路や学習範囲を時間軸に沿って話していくと、学期の終わりにはA4用紙いっぱいに看護師になるための具体的な計画や目的が書き綴られ、結果として成績が上がっていくそうです。

漠然としていた将来に具体的な価値を感じられるようになると、現在を計画的に乗り切ることができるようになります。

野呂エイシロウ氏の著書「先延ばしと挫折をなくす計画術 無敵の法則」(アスコム)によると、先延ばし癖をなくす方法の一つに「スケジュールには目的を書く」ということが紹介されています。

時間割でも、1限数学、2限英語、という予定を書くより、「1限数学 発見した解法を尊敬する鈴木先生に見てもらい、みんなの前で褒めてもらう。」と目的を書きこめば、計画通り行動できると述べています。

先延ばし行動を防ぐ方法は、レジリエンスを高めるとか報酬を与える等、様々な方法が紹介されています。

その中でも生徒にはやはり、抽象的に考えがちな自分の将来を具体的に考えさせることによって、先延ばしせずに現在を大切に生きていって欲しいと願ってやみません。

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