時間を生徒に返す時代

コラム

2022年6月17日号の「週刊朝日」によると、最近学校教育現場から聞こえてくるのは「時間を生徒に返す」という言葉です。時間を有効活用してもらうために先生の授業がある、という考えからすれば、なんとも謙虚な言葉です。その背景には、教育現場だけにとどまらない、社会的なニーズもあるように思えます。

生徒の時間を”浪費”させない

東大・京大の現役進学率トップ10を見ると、東大は10校中9校、京大は10校中8校が中高一貫校で、高2までに教科書内容を終え、受験に特化した時間を多く確保できる高校が躍進しています。一方公立校では、「時間を生徒に返す」という言葉をキーワードに、従来の課外授業や補習等の詰め込み教育をやめ、生徒に自分で時間を管理させ、自己学習を促すことが潮流になってきています。例えば、添削学習に力を入れている宮城県仙台第二高等学校では、生徒に一斉に同じプリントを配布することをやめ、生徒が自分の進度にあったプリントに取り組むことを始めました。教科書の例題や様々な大学の入試過去問を生徒が自由に持ち帰り、解き終わったプリントは担当教師が添削し、一人ひとりにアドバイスを書き込んで返却します。自分で選んだ問題ですから、生徒は先生のコメントを熱心に読み込み、自主的に取り組むようになったそうです。

映画を早送りで観る世代

稲田豊史氏の著書「映画を早送りで観る人たち」(光文社新書)では、2時間の映画を倍速で1時間で観たり、会話のないシーンは早送りで飛ばす人が若い世代を中心に増えていることが紹介されています。倍速視聴する人の考えは、コスパ(コストパフォーマンス)ならぬタイパ(タイムパフォーマンス)にあるそうです。大学生は趣味や娯楽をてっとり早く、短時間で何かをモノにしたいと考えており、回り道をして膨大な時間を費やすことを「タイパが悪い」といって嫌います。2021年の青山学院大学での調査では、大学2年生~4年生のうち、倍速視聴をしたことのある生徒は87.6%で、最も倍速視聴していた映像コンテンツは「大学の講義」でした。効率的という理由だけでなく「むしろ集中して聞けるので頭に入る」という感想もあり、実際に先生がしゃべる速度にまどろっこしさを感じるのだと思われます。この傾向は今後、年齢が下がる程増えると予想されています。

生徒が中心になって自主的に学習する授業は、日本ではもともと江戸時代の「寺子屋」で行われていました。寺子屋の机は生徒同士で座り、教室の隅に先生がいるだけでした。時間はいつも生徒側にあったわけです。それが明治5年(1872年)の「学制」によって、効率性を追求する西洋の学校方式が導入され、黒板を背にした先生が多くの生徒に知識を伝授する「一斉授業」が始まりました。以来150年間、その方式が変わらず続いています。人の話までタイパを追求する若い世代はけしからんという意見もありますが、映画を倍速で観ないといけないほど時間がない日々を過ごし、情報量が多い時代に生きている世代です。言い換えれば、単位時間当たりの情報処理能力がものすごく高い世代とも言えます。そんな世代には、知識を伝授する授業は倍速で提供し、主体的で入試対策等の実践的な授業はライブ授業で行う方が理にかなっているように思えます。授業についていけない学力層は、むしろ低速で授業を聞くかもしれません。動画視聴はニーズの一つに過ぎませんが、いずれにせよ「生徒に時間を返す」という発想は現場で検討する価値があるように思えます。

>>塾運営に関する各種資料ダウンロードはこちら

\ビットキャンパスの詳細はこちら/

タイトルとURLをコピーしました